大阪高等裁判所 昭和39年(う)1852号 判決 1965年5月29日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
<前略>
職権をもつて原判決の法令の適用の当否について検討するに、原判決は原判示第一の二の(二)事実、すなわち、被告人が昭和三八年四月一七日施行の原判示選挙の終了後である同年四月二四日頃松岡弘に対して現金七、〇〇〇円を供与した事実につき、選挙終了後も被告人が「公職の候補者」たる地位にあるとの見解の下に公職選挙法二二一条一項三号三項を適用していることが判文上明らかである。しかしながら、「公職の候補者」たる身分は、一たん取得すればいつまでも存続するものではなく、当該選挙の終了と同時になくなるものと解すべきところ同条三項は「公職の候補者」たる身分を有する者が同条一項所定の罪を犯した場合に、これが身分を有しない者が犯した場合に比し、その罰則を重くした趣旨であることから考えると、立候補届出前の候補者と同様選挙終了後は同条三項所定の「公職の候補者」ということができないものと解するを相当とする(昭和三五年二月二三日の最高裁判所第三小法廷判決参照)検察官は選挙管理委員会が当該選挙終了後において出納責任者が提出した報告書の調査に関し同法一九三条により必要があると認めるときは「公職の候補者」に対し報告又は資料の提出を求めることができることになつている点からいつても同法二二一条三項一号にいう「公職の候補者」には「公職の候補者であつた者」をも含むと主張するけれども、右一九三条は選挙管理委員会が選挙終了後において出納責任者の提出した報告書に関する調査の必要上、公職の候補者に対し報告又は資料の提出を求めることができることを定めた手続規定であつて、ここでいう公職の候補者とはその規定の趣旨からみると公職の候補者たりしものと解するのが相当であると考える。これに反し、同法二二一条三項の規定は刑罰法規であるから「公職の候補者」の解釈に当り、右一九三条と同一用語が用いられているからといつて直ちに「公の職候補者たりし者」をも含むと解することは妥当でない。そう解釈するには二二一条三項の趣旨にその根拠を求めなければならないところ、立候補届出前の候補者に比し、候補者たりしものを特に重くしなければならない理由を発見することができない。また検察官引用の大審院判例は衆議院議員選挙法一〇六条ないし一〇八条、一三六条にいう選挙事務長又は選挙運動の総括主宰者に関するものであつて本件に適切ではない。しからば、選挙はいつ終了するかというに、当選人が定まりその当選の効力が生じたときと解するを相当とし、当選の効力は告示によつて効力を生ずるから、(同法一〇二条)当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会が当選人の住所及び氏名を告示したときと考える。(同法一〇一条)ところで、本件選挙の当選人の告示は、被告人の当審における供述によると、昭和三八年四月一八日頃であることが明らかであるからそれ以後である昭和三八年四月二四日頃に犯かした原判示第一の二の(二)の供与罪につき同法二二一条一項三号を適用すべきところを同条三項を適用した原判決の右法令の適用は誤であるといわなければならないが、原判決は原判示各事実に併合罪の規定を適用し、被告人が立候補届出後選挙期日前に犯かした原判示第一の二の(一)の罪すなわち同法二二一条三項一号所定の懲役刑に基き他の罪の刑を併合加重をしているのであつて、原判示第一の二の(二)の事実につき同法二二一条一項三号を適用してもその処断刑の巾は同一であり、量刑上においても何等かわりがないと認められるから原判決の右誤は判決に影響を及ぼさないものと解し、職権破棄の理由としない。(笠松義資 八木直道 荒石利雄)